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陸海空 -Caress of Venus- 第一章 第四話

2005/11/29 20:39 [Tue]
10-01

 静かな音楽が流れる喫茶店。そのボックス席に三人は座っていた。
公人「クー、少しは落ち着いた?」
 こくん、と頷くクー。あまり立ち直ってはいないようだ。
夏海「紅茶でも飲んで嫌なことは忘れなさい」
 長い沈黙。
 それでも紅茶に手を伸ばす努力をするが、傷口が傷むのかティーカップを掴んで軽く顔をしかめる。諦めて左手で紅茶を飲み始めた。
 たとえ少しでも自発的に行動し始めたクーを見て、胸をなでおろす夏海。
公人「ほら、クッキーも食べて」
 これはマスターが追加で持ってきてくれたものだ。

 手を伸ばさないクー。俺はクッキーを一つ摘むとクーの目の前に持っていく。
公人「あ~~ん」
 されるのも恥ずかしいが自分でするのもかなり恥ずかしい。しかもマスターがいるし……
 だからと言ってここで引くわけにはいかない。
 クーはこちらを一度見つめると口を軽く開いた。
空  「……あ~ん」
 そのまま口元へ運ぶとクーはクッキーを半分くらいかじる。
公人「美味しい?」
 クッキーを飲み込み頷く。
空  「はい、とても美味しいです。多分、今までで一番美味し……」
 つー、と一筋の涙がクーの頬を濡らす。夏海はハンカチを取り出すと涙を拭き取る。
夏海「いくら美味しくても涙流すほどのモンでもないでしょ」
公人「おいおい、マスターに悪いだろ……」
益田「ははは、いいんだよ。夏海ちゃんが作るクッキーには及ばないからね」
 クーは俺の手からクッキーを取ると、俺の口元に差し出す。
空  「あ~~ん」
 苦笑いを浮かべながら口を開く。少し甘めのクッキーは歯ざわりが良く美味しかった。
空  「美味しいですよね?」
公人「うん、美味しい」
夏海「あ~っ。クー、どさくさに紛れて何いちゃついてんのよっ」
 心配をかけまいと、明るく振舞うクーの態度が俺には悲しかった。



10-02

夏海「それじゃ、マスターご馳走様でした~」
空  「ご迷惑おかけして申し訳ありませんでした」
益田「気にしなくていいからね~」
 三人が店を出て行くと、店には益田一人となる。
 カウンターに隠されたディスプレイ。これは夏海も存在を知らないのだが、ボタン一つで客席からは見えない所にせり出してくる。

 そこにはマイに吊り下げられた公人の姿が映し出されていた。
益田「協定…… ルール違反か……」
 ポケットからタバコを取り出し火を点ける。紫煙を燻らせ画面を見つめ溜め息をついた。
益田「まったく、アイツは何やってるんだ…… くり返す訳にはいかないんだぞ」
 タバコを灰皿で揉み消すと携帯電話を操作して待つ。
益田「……忙しいとこ悪いな、ルール違反が起きた。計画遅延の可能性が出て…… いや、これはチャンスかも知れないぞ。だが、違反者は処分対象だ」
 携帯を折り畳みしまう。そしてしばらく考え呟く。
益田「……準備はそれほど難しくないな。さぁ、ゲームの開幕だ。楽しくいこうか」
 含みのある笑いを口元に浮かべていた。



 自宅に着くと三人はリビングのソファに腰掛けた。
夏海「流石にこれだけ荷物があると疲れるわね~」
 夏海の横には手提げ袋が一つ。中身は服じゃなかったか?
公人「俺はその何倍の荷物を持ってたと思ってる?」
夏海「男は無駄なこと言わない方がモテるわよ」
空  「公人さん、お疲れでしたら私が……」
 俺のために何かしようと立ち上がるクー。それを押し留める夏海。

夏海「クー、今日は右手を怪我してるんだから安静にしてなさい。怪我の状態が良ければ明日にでもたぁっぷり世話してあげればいいでしょ」
公人「そうだな、たまには夏海も良い事を言う」
 ゴゴゴという擬音が聞こえるような雰囲気で、ゆっくりと立ち上がる夏海。
夏海「……今日は公人に世話してもらうのがいいわね。食事も風呂も、ねっ!」
 そう言うと全ての荷物を手に取り二階に上がって行く。言わなきゃよかった……



10-03
 階段を下りてくると、夕飯の準備に取り掛かる夏海。
夏海「クー、公人と一緒にゆっくりしてなさい。甘えられる時に甘えとかないと公人は甘えさせてくれないわよ」
 痛いところを突かれる。確かに今はクーを突き放すなんて、できっこない。
 じっ、とこちらを見つめるクー。そして腕を絡めると頭を傾けてくる。
公人「腕を抱き締めるのはいいけど、右手は傷が治るまであまり動かすなよ」
空  「はい、そうします」
 そのまま夕食の時間まで興味も出ないニュースを見て過ごした。

夏海「夕食の準備終わったから来て~」
 夏海の声でダイニングに向かう。
夏海「クーはそこ、公人はここね」
 そう言って座る場所を指定する。クーと俺が並び、その正面に夏海が座る。
空  「頂きます」
公人「いただきま~す」
夏海「ほら、公人。クーは右手が使えないんだから食べさせてあげなさい」
公人「む?」
空  「フォークがあればこれくらい……」
夏海「ふ~ん、クーがそう言うなら、私だけ公人に食べさせて貰おうかしら」
 真剣な表情で考え込むクー。いや、そんなに悩む問題でもないだろ。

 まぁ今日は仕方ない、とクーの口元に料理を運ぶ。
公人「あ~~ん」
空  「…………あ~ん」
 もぐもぐと口を動かし飲み込む。
夏海「食べさせて貰うのはどんな感じ?」
空  「……夏海の料理が30%増しに美味しくなりました」
公人「それじゃもっと食べさせてあげようか」
空  「はい、お願いします」
夏海「待ちなさい。その前に私にも食べさせてくれるのが筋ってモンでしょ?」
 結局自分でして貰いたいから言い出したんじゃないのか……



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